リハートハウス吹田 建設に向けて
川島康生
国立循環器病研究センター
名誉総長
1987年の春、阪大病院の院長であった私は、新しい病院建築の為のアイデアを得るべく欧米視察の旅に出た。そこで得た知見の幾つかは、新機軸として現在の阪大病院に採用され、活用されている。
しかし、それとは別に私が注目したのは、幾つかの病院、特にアメリカの病院が敷地内にホテルを所有していた事であった。
今や周知のことであるが、アメリカでは医療費が高額であり、そのため急性期を過ぎた患者さんで遠隔地から来られた方の多くはこのホテルに移って静養を続けた後、遠くの自宅へと帰って行かれるのである。
当時は何ヶ月分という手術予定患者、特に先天性心疾患の患者さんをかかえて苦労していた私にとっては、すぐにでも飛びつきたいシステムであったが、当時の文科省や財務省がそれを受け入れる筈はなかった。
その後国立循環器病センターに移った私は、そこでもこの計画の実施を図ったが、厚労省も全く興味を示さなかった。幸い同じ思いを持った北村惣一朗総長の時代になって循環器病センターの近くにマクドナルドハウスが作られた。
多くの子どもさんとその家族の役に立ったことは言う迄もない。只この施設には利用制限があり、折しも軌道に乗りつつあった少児の心臓移植のように長期の滞在を必要とする患者さんには多少使い難かったようである。
と、そこへ現れたのが吹田市にお住まいの篤志家の御婦人である。所有しておられる土地を役立ててくださいとの御申し出に飛びつかなかったらおかしいと思う。
地元のNPO法人の代理理事の大変な努力があって、受け皿になる一般財団法人ができた。
ハートウォーミング・セイシンである。
大阪大学の澤芳樹教授を理事長とするこの財団が一日も早くその場を得て実際の活動を始め、子供たちの希望の館が実現することを期待したい。
補助人工心臓を装着して移植を待つ子どもさん、心臓移植を終えた子供さん、そして親御さん達の明るい笑い声がこの財団によって実現した新しいハウスに満ち溢れる日が一日も早くやってくることを夢見ている。